無響室とは外部からの音を遮断するとともに、室内での音の反射を防ぎ、音響的には周りに何の物体もないとみなせる「自由音場」を実現するものです。音響機器などの開発や試験のために使われます。
無響室の壁や天井は、くさびなどの形をした分厚いグラスウールの吸音体が設置され、外部からの音を遮断し、また内部の音を吸収するようになっています。室内の6面すべてに吸音体を設置した「完全無響室」と、床などの1面だけ吸音体を取り付けない「半無響室」の2種類があります。
無響室と似たものに「防音室」があります。防音室は外部の音は遮蔽しますが、内部の反響は十分に吸収しません。そのため、音響機器などの開発段階での簡易的な試験に使われるほか、検査室やアナウンスブースなど静けさが求められる場所で利用されます。
無響室は以上のように、一般に音響用の設備を指しますが、EMC業界では電波暗室と同じ意味で用いられることもあります。
「暗室」は本来、外部の光を遮断し、内部での光の反射を抑える部屋を意味するものです。「電波暗室」は、光を電波に置き換えれば暗室と同じ働きをするものであるために、このように呼ばれています。
「無響室」も、音を電波に置き換えれば電波暗室と働きが同じであるため、電波暗室を指すために使われることがあるのです。紛らわしい場合には「電波無響室」と呼ばれることもあります。
無響室は、外からの雑音や室内の反響があると正確に行えない測定のために使われます。音響機器の例でいえば、スピーカーの周波数特性やマイクロフォンの指向性などの測定などです。
またエアコンや冷蔵庫、洗濯機などの家電製品や自動車の騒音の測定にも使われます。自動車は特に、エンジン音やロードノイズなどの騒音、カーオーディオやカーナビの音声の周波数特性、ドア締まり音など幅広い測定に活用されます。
無響室の種類には、完全無響室と半無響室の2つがあります。壁と天井、床の6面すべてに吸音体を設置した完全無響室は、自由音場に限りなく近くなるため、精度の高い測定が可能です。家電・音響製品や産業機器、各種部品などの測定に幅広く活用されます。測定機器の校正も重要な用途です。
その一方、床にも吸音体が設置されるため、床は吸音体の上に網状のものが敷かれるだけとなります。そのため、重量物の荷重には耐えられず、測定できるのは小型軽量のもの限定です。
半無響室は、吸音体の設置は四方の壁と天井だけにとどめ、床は重量物の荷重にも耐えられる頑丈な造りにしたものです。自動車や比較的大型の産業機器などの測定に使われます。
床からは音が反射するため、全方向で自由音場が成立する完全無響室とは異なり、自由音場は上方向と斜め上方向しか成立しません。しかし、自動車などの重量物は多くの場合、路面や地面などの上で使用されます。そのようなものについては、たとえ床からの音の反射があったとしても、測定上大きな問題にはなりません。
自由音場がどの程度成立するかは、無響室の使用にあたっては重要な問題です。測定上、全方向での成立が必要か、それとも上方向・斜め上方向だけで良いかによって、完全無響室と半無響室を使い分けなければなりません。
また無響室の中には照明や測定装置その他、そのままでは音が反射してしまうものが設置されます。それらのものについても吸音マットを貼るなどし、音の反射を極力なくす配慮・努力が必要です。
無響室の設計にあたっては、「無響室での測定の内容と方法」に合わせて、さまざまな仕様の検討が必要です。使い勝手を良くするため、無響室と隣接する計測室や保管スペース、資材置き場、搬入経路などを適切に配置しなくてはなりません。長時間に及ぶ測定を快適に行うためには、無響室内の居住性の確保も重要です。
また、空調や照明などの電気設備は騒音源となる可能性があります。必要な性能を確保したうえで、騒音対策も徹底的に行わなくてはなりません。
無響室の設計に考慮が必要な条件は以下の4つです。
無響室で使われる吸音体の素材はグラスウールが一般的です。形状は用途により、おもに以下の3種類があります。
一般に吸収が困難な低い周波数の音まで吸収でき、性能が最も優れているといわれるのが、くさび型の形状をした吸音体です。グラスウールをくさび型の布に入れ、ワイヤーフレームで固定します。くさびの奥行きは標準タイプで60cm、さらに低い周波数を吸収させる場合は1m以上です。
断面が台形の吸音体は奥行き30cm程度であるため、スペース効率や搬入性、コストパフォーマンスに優れているのが特徴です。ただし、低い周波数の吸音性はくさび型と比べて劣ります。
グラスウールの密度を変えた板状の吸音体を複数貼り合わせる多層式の吸音体は、台形のものよりさらにコストが低くなります。ただし、やはり低い周波数はあまり吸収できません。
電波暗室を導入するにあたって最初に考えるべきなのは、購入にするかレンタルにするかということ。電波暗室の施工には5,000万~10億円という規模の予算が必要となります。購入となった場合は、計測システムを持っているかどうかで選ぶべき企業が変わってくる点にも注意が必要です。
自社の状況別に3つの企業を紹介していますので、ぜひ参考になさってください。
電波暗室だけではなく、電波暗室に必須の"計測システム"もまとめて提供してくれる会社。
調整やコミュニケーションの手間が減少し、導入期間の短縮が期待できます。
電波暗室だけを増設したい会社におすすめ。
既存のメーカーの製品保守やメンテナンスにも対応をしており、施工実績も豊富なメーカー(※)です。
大規模な生産をしない場合や、予算確保が困難な場合はレンタルがおすすめ。
EMC試験だけでなく、アンテナ計測など多種多様な試験を行える体制を整えております。
【選定条件】Google検索「電波暗室」で表示された上位22社を調査(2022年3月11日時点)。それぞれ以下の条件で選定。
・電波暗室を初めて導入するなら:唯一、グループ会社内で電波暗室と計測システムの両方を提供している企業
・今ある電波暗室を増室したいなら:既存の電波暗室の補修やメンテナンスに対応しており、なおかつ公式HPに掲載されている電波暗室の施工実績数が一番多い企業(累計1,200基)(2022年3月調査時点)
・購入するほどの費用帯効果を見込めないなら:電波暗室のレンタルを行っている企業の中で、唯一アンテナ計測、EMCの両方のレンタルが可能