電波暗室は、無線機器やアンテナの実験や電子機器などから放射される電磁ノイズの測定するために欠かせない設備のひとつ。ここでは、電波暗室の仕組みについて解説。電波暗室の原理や構造などをまとめて紹介しています。
一般的な電波暗室は、空間全体を金属でシールドするため、室内に電磁波を遮蔽した磁性体や誘電体でできた電波吸収体を配し、電磁界の反射を軽減する構造となっています。検査機器が空間内に反射した電波をキャッチしないようにするため、検査対象となる電子機器や無線機器などの大きさや使用目的によって、電波暗室のサイズや使用する電波吸収体が決められています。
電波暗室は構造上、大きく2つのタイプに分けられています。1つ目は、天井・床・壁といった上下左右前後の6面すべてに吸収体を取り付けた「6面電波暗室」で、自由空間を模擬しています。そして2つ目は、床以外の計5面に吸収体を取り付けた「5面電波暗室」で、床面は地上での電波反射を想定しているため、吸収体を付けない構造になっています。
電波吸収体にはいくつかの種類がありますが、主なものはフェライトなどの磁性、誘電性、抵抗性の3つに分類されています。下記にそれぞれの特性についてまとめてみました。
このサイトでは、電波暗室の他に、電波吸収体の詳細解説や、おすすめのメーカー、知っておきたい基礎知識について紹介しています。電波吸収体メーカーについても製品例とともに用途別に紹介しています。電波吸収体を検討されている方は、ぜひこちらも参考にしてみてください。
電波暗室の仕組みを見ていくにあたり、そもそも「電波」とは何なのかを解説します。
電波とは、空間を伝わる電気エネルギーの波「電磁波」の一種です。電磁波はその周波数により、放射線や紫外線、可視光線、赤外線などの種類があります。電波はそのうち「3THz(テラヘルツ)以下の電磁波」と、電波法により定義されています。
電波の例として身近なのは、携帯電話やテレビ・ラジオの電波でしょう。Bluetoothや無線LAN、GPS、ETC、電子レンジなどにも電波が使われています。そのほか、さまざまな無線通信やレーダー、電波天文、電波時計なども、電波が活用される技術の例です。
ここからは、電波の基本的な性質を簡単に解説します。
電波は空間を振動しながら伝わります。1秒間に何回振動するかは「周波数」で表され、周波数の単位はHz(ヘルツ)です。
まったく物質のない理想の空間である「自由空間」では、電波のエネルギーは衰えることがありません。したがって、放射された電波は無限の遠くまで伝わっていきます。
ただし、電波は放射点から、周囲に広がりながら伝わります。これは、電球の光が部屋中に広がるのと同じです。そのため、放射点から遠くなるほど、単位面積あたりのエネルギー(エネルギー密度)が低下します。
放射点から一定の距離だけ進んだときの電波の広がりは、その距離を半径とする球の表面積で示されます。球の表面積は半径の2乗に比例します。したがって、電波のエネルギー密度は放射点からの距離の2乗に反比例することになります。すなわち、距離が離れれば離れるほど、電波のエネルギー密度は低下していくのです。
自由空間の電波の性質として、上述の「エネルギー密度が距離の2乗に反比例する」という性質のほかに、もう一つ重要な性質があります。
電波は通常、送信アンテナで送信され、受信アンテナで受信されます。その場合にはアンテナでの送受信により損失が発生するため、「エネルギー密度が周波数の2乗に反比例する」という性質があるのです。すなわち、送信アンテナから同じ距離だけ離れていても、周波数が高ければ高いほど、受信アンテナで受け取れる電波のエネルギーは小さくなってしまいます。
実際に電波が伝わっていく際には、自由空間とは異なりさまざまな物体・物質が存在します。そのような場所で電波が示す性質に、「反射と透過」や「回折」「干渉」があります。
まず「反射と透過」とは、進行方向に物体があった場合の電波のふるまいです。物体が電波を通しにくいものであった場合は、電波は跳ね返る現象「反射」を起こします。電波を通しやすいものなら、電波は通り抜ける現象「透過」を起こすのです。
たとえば、壁などに使われるコンクリートは電波を通しにくい物体、窓ガラスは電波を通しやすい物体です。
「回折」とは、電波が障害物を回り込んで伝わることです。携帯電話が、基地局が直接見えない場所でも繋がるのは、この電波の回折によっています。
回折は、電波の周波数が低ければ低いほど、より大きく回り込みます。携帯電話の「800GHz帯」が「プラチナバンド」といわれるのは、周波数が比較的低くて、建物などがあっても大きく回り込んでくれるため、携帯電話の接続が良くなることが一つの理由です。
「干渉」とは、複数の電波が、それが重なり合う位置によって強め合ったり、弱め合ったりすることです。たとえば、2つの同じ周波数の電波があるとき、2つの電波の山と山、谷と谷が同じ位置にある場合には、2つの電波は強め合います。その一方、山と谷が同じ位置に来る場合には、2つの電波は弱め合うのです。
携帯電話の場合なら、電波の干渉は通信品質を下げる原因の一つとなります。そのため、繁華街などで小型基地局を密集して設置する際には、高い周波数帯を利用して隣のエリアに電波が届きにくいようにし、電波の干渉を避ける工夫がされています。
電波暗室の電波吸収体が電波を吸収する仕組みは、「誘電損失」「磁気損失」「反射損失(リターンロス)」の大きく3つに分けられます。
誘電損失とは、「誘電体」に電波が侵入すると、電波のエネルギーが熱となって損失することです。電波吸収体では、誘電体としてゴムや樹脂にカーボンなどの導電粉末を混ぜ込んだものを使います。ゴムや樹脂単体でも誘電体の性質を持ちますが、カーボン粉末などを混ぜ込むことで、エネルギーの損失をより大きくすることが可能です。
ゴムにカーボンを混ぜ込んだ電波吸収体は、カーボン粉末の量により吸収される周波数帯が変わります。そのため、カーボン粉末の量を変え、異なる周波数特性を持つようにした電波吸収体を複数重ね合わせることで、広い周波数の電波を吸収させることが可能です。
磁気損失とは「磁性体」に電波が侵入すると、磁性体内部に無数にある小さな磁石が回転を始め、電波のエネルギーが回転エネルギーとなって損失するものです。磁気損失タイプの電波吸収体として代表的なものはフェライトタイルで、5~6mmの薄型でありながら広帯域の電波吸収性能を持っています。フェライトタイルの電波吸収特性は、材質や厚みにより変化させることが可能です。
反射損失(リターンロス)とは、金属板などを使用して入射した電波を反射させ、入射波と反射波のあいだで前述の「干渉」を起こさせることにより、電波を打ち消すものです。高い電波吸収性能が得られますが、打ち消せる電波の周波数帯域が狭いことが弱点となっています。
電波暗室を導入するにあたって最初に考えるべきなのは、購入にするかレンタルにするかということ。電波暗室の施工には5,000万~10億円という規模の予算が必要となります。購入となった場合は、計測システムを持っているかどうかで選ぶべき企業が変わってくる点にも注意が必要です。
自社の状況別に3つの企業を紹介していますので、ぜひ参考になさってください。
引用元:マイクロウェーブ ファクトリー公式HP
(https://www.mwf.co.jp/)
電波暗室だけではなく、電波暗室に必須の"計測システム"もまとめて提供してくれる会社。
調整やコミュニケーションの手間が減少し、導入期間の短縮が期待できます。
引用元:TDK公式HP
(https://www.tdk.com/ja/index.html)
電波暗室だけを増設したい会社におすすめ。
既存のメーカーの製品保守やメンテナンスにも対応をしており、施工実績も豊富なメーカー(※)です。
引用元:テュフラインランドジャパン公式HP
(https://www.tuv.com/japan/jp/)
大規模な生産をしない場合や、予算確保が困難な場合はレンタルがおすすめ。
EMC試験だけでなく、アンテナ計測など多種多様な試験を行える体制を整えております。
【選定条件】Google検索「電波暗室」で表示された上位22社を調査(2022年3月11日時点)。それぞれ以下の条件で選定。
・電波暗室を初めて導入するなら:唯一、グループ会社内で電波暗室と計測システムの両方を提供している企業
・今ある電波暗室を増室したいなら:既存の電波暗室の補修やメンテナンスに対応しており、なおかつ公式HPに掲載されている電波暗室の施工実績数が一番多い企業(累計1,200基)(2022年3月調査時点)
・購入するほどの費用帯効果を見込めないなら:電波暗室のレンタルを行っている企業の中で、唯一アンテナ計測、EMCの両方のレンタルが可能