電波の利用が拡大する現代、通信品質の向上や電子機器の誤動作防止に欠かせないのが「電波吸収体」です。
そして、最近注目を集めているのが、従来にない性能を発揮できる「メタマテリアル」を活用した新たな吸収技術。
薄型・軽量ながら、周波数選択性の高い吸収特性を実現し、今後さらに幅広い用途への応用が期待されています。
ここでは、メタマテリアルを用いた電波吸収体のメリットや実例、そして将来の課題までを初心者にもわかりやすく解説します。
近年の情報社会では、あらゆる分野で電波の利用が盛んに行われています。
スマートフォンや無線LANをはじめとする通信機器はもちろん、産業用ロボットや自動車、医療機器など、電波を媒介とするシステムは急増している状況です。
その反面、電子機器間の干渉やノイズなど、望ましくない電磁影響も無視できなくなっています。
そういった問題を解決するための手段として欠かせないのが、不要な電波を効率よく吸収して反射や透過を抑える電波吸収体です。
そして、よりコンパクトで高性能な電波吸収技術の実現を目指して、今特に注目されているのが「メタマテリアル」の応用です。
ここでは、メタマテリアルを用いた電波吸収体がどのようなメリットをもたらすのか、3つの観点から解説します。
従来の電波吸収体は、フェライトなど比較的厚みのある材料を用いるケースが多く、設置スペースに制約がある場面で使いづらいという弱点がありました。
一方、メタマテリアルを利用した電波吸収体は、その構造をナノ~マイクロメートル単位でデザインすることで、電磁波に対して人工的な共振現象を起こし、薄い層でも十分な吸収性能を得られることが特徴です。
例えば、従来は数センチメートル必要だった厚みを、メタマテリアルによって数ミリメートル、場合によってはミリ波帯やテラヘルツ帯ではさらに薄い膜状にまで抑えられる可能性があります。
そのため、通信機器の内部や車載アンテナ周辺などの狭い空間でも柔軟に設置できるようになり、製品デザインの自由度が大きく向上する点が大きなメリットです。
メタマテリアルの構造要素は、いわば人工的に作り込んだ「電気的共振器」や「磁気的共振器」として機能します。
そのため、どの周波数帯に共振させるかを、幾何パターンや材料定数の組み合わせによって細かく調整が可能です。
これにより、極めて高い周波数選択性が得られるだけでなく、複数の構造を多層的に組み合わせることで、広い帯域をカバーする吸収体の設計も実現できます。
従来の吸収材料では、特定の狭い周波数帯だけを狙う設計が難しかったり、逆に広い帯域をカバーしようとすると厚みが増えてしまう欠点がありました。
メタマテリアルを活用することで、狙った周波数帯だけを効率よく吸収し、不要な帯域を無駄にカットしないような、きめ細やかな制御が期待できます。
これらの特性は、5Gや6Gといった高周波通信はもちろん、産業機器やミリ波レーダーなどさまざまな分野で高く評価されています。
メタマテリアルは、あくまで「構造」によってその特性を変化させる概念ですが、それをさらに進化させる取り組みとして、半導体素子や導電性高分子などを組み込んだ「能動的」な設計が行われています。
例えば、電圧をかけると構造のインピーダンスが変化し、吸収周波数帯域や吸収率をリアルタイムに切り替えられる技術や、吸収以外の機能(アンテナ・位相制御・偏波制御など)を複合的に集積する研究が盛んです。
こうした機能統合型のメタマテリアル吸収体は、従来の受動的なシールド材料では実現しにくかった高度な電磁環境制御を可能にします。
通信品質や機器の安定性を一括管理できる未来志向の技術として、今後ますます開発競争が活発化していくでしょう。
メタマテリアルを用いた電波吸収体は、すでに研究ベースだけでなく、実際の産業界でも注目を集めています。
ここからは、具体的な応用事例を4つ紹介することで、メタマテリアル吸収体がどのように活かされているのかをイメージしやすくしていきます。
高速大容量通信が求められる5Gや今後の6G時代では、基地局周辺の電磁環境が極めて重要です。
従来の吸収材料だと、大きなアンテナ設備に合わせて十分な吸収性能を持つために分厚いシートやパネルが必要でした。しかし、メタマテリアルを使うことで、薄膜状でありながら特定の周波数帯(例えば28GHz帯などミリ波帯)を選択的に吸収できる製品が開発されています。
この技術を使って基地局の周囲をスマートにシールドすることで、近接する他の無線機器との干渉を低減したり、不必要なスキャッタを防止したりすることが可能になります。
同様に、産業用や自動車用レーダーの不要輻射を抑え、センサーの検知精度向上や安全性確保にも応用が広がっています。
自動車業界では、ミリ波レーダーを活用した運転支援技術(ADAS)が一般的になりつつあります。
車体の複雑な曲面やスペースの制限がある中でも、高精度の電波制御が求められ、メタマテリアル吸収体は大いに役立ちます。
車体内部に組み込む場合、従来の厚みのある吸収材だと設置場所や重量増の問題がありましたが、メタマテリアルであれば数ミリメートルの厚さでも十分な吸収力を発揮し、さらに曲面への貼り付けが可能なフレキシブル基板も実用化され始めています。
車載レーダーが発する余分な電波の外部漏洩を防いだり、車内センサー類の相互干渉を軽減したりすることができます。
加えて、車両デザインや重量バランスを損なわない点もメリットとなります。
電磁両立性(EMC)対策は、スマートフォンやノートPCといった携帯端末から、医療機器、産業用ロボットに至るまで幅広い分野で重要です。
特に超小型の携帯電子機器では、回路同士の干渉が起きやすく、通信品質やバッテリー寿命に悪影響を及ぼす場合があります。
メタマテリアル吸収体を内部の狭小スペースに設置すれば、ピンポイントで不要電波を吸収することができ、動作安定性が向上すると期待されています。
また、最近では電波漏洩による情報セキュリティリスクもクローズアップされており、企業のオフィス空間や会議室の壁材にメタマテリアル吸収体を組み込むことで、外部への機密情報漏洩を防ぐ対策も検討されています。
メタマテリアルを活用した電波吸収体は、多数のメリットや応用可能性を持つ一方、依然として解決すべき技術的・経済的な課題が存在します。
ここでは、代表的なものをいくつか整理します。
メタマテリアルの微細構造を正確かつ均一に作り込むためには、高度なナノ加工技術や微細エッチング技術が必要になります。
研究室レベルでは優れた性能が確認できても、大量生産向けにコストを抑えつつ高品質な製品を作るのは容易ではありません。
今後は、印刷技術や3Dプリント、ロール・トゥ・ロール方式など、大規模製造を可能にする工程の開発が大きなカギとなるでしょう。
周波数選択性を高めることはメタマテリアルの得意分野ですが、一方で複数の周波数帯を同時に吸収したい場合には多層構造や複雑な配列設計が必要になります。
構造が複雑化すれば、製造コストや歩留まりの面で新たなハードルが生じます。
各種シミュレーション手法の進歩とあわせて、実験との誤差を小さくするための研究開発が続けられています。
薄膜化やフレキシブル化を図るほど、湿度や温度変化、摩擦など外部環境によるダメージを受けやすくなります。
実際に製品として長期間使うには、安定した材料特性や保護コーティング技術の確立が欠かせません。
特に自動車や航空機などの過酷な使用環境下では、温度変動や振動の影響を受けても性能が落ちにくい設計が求められます。
通信業界や車載分野、軍事分野などでは、それぞれに異なる規格や試験方法が存在します。
メタマテリアル吸収体を本格的に普及させるには、各分野の要求に合致した試験規格や性能評価基準を整備し、相互運用性を確保していく必要があります。
そのためには、産学官が連携して標準化活動を進めることが重要です。
メタマテリアルを用いた電波吸収体は、従来の吸収技術を大きく変革するポテンシャルを秘めています。
薄型・軽量でありながら高い吸収性能を発揮できるだけでなく、周波数選択性や広帯域化の自由度が高く、さらには能動制御や多機能統合の道も開かれています。
これらのメリットにより、通信基地局の電磁環境改善や車載レーダーの干渉防止、電子機器のEMC対策など、多様な領域での実用化が進んでいるのは大きな特徴と言えるでしょう。
一方で、製造コストや大量生産技術の確立、広帯域化のための設計最適化、環境耐性の向上、そして各産業分野での標準化といった課題も抱えています。
これらを克服するためには、ナノ加工技術や材料科学、電磁界シミュレーション、さらにはAIによる自動設計支援など、さまざまな領域の研究開発が連携することが求められます。
また、企業や大学、研究機関、官公庁が一体となって技術標準や品質評価指標を策定する取り組みも重要です。
今後は、5G/6G通信や自動運転システムなど電波利用がさらに高度化・多様化するなかで、メタマテリアルを活用した電波吸収技術は「より賢く電波を制御する」ための要となっていくでしょう。
引用元:E&Cエンジニアリング公式HP https://ece.co.jp/
6G領域の通信端末の評価や、軍事産業でも使える難燃性製品など、新たな製品規格の研究開発に精通。
屋外や真空環境での使用など、特殊な用途での電波吸収体の試作や制作についても相談できます。
また、電波暗室の建設についてもノウハウも豊富です。
引用元:新日本電波吸収体公式HP https://mwa.co.jp/
電磁波環境トータルソリューションカンパニーとして、暗室用の電波吸収体のほか、磁性シート、電磁波ノイズ抑制シート、シールド材の取り扱いも豊富です。
磁性シートは、高い磁気シールド効果 (µ'=50)を維持しつつ、磁束の減衰を極力無くす構造を実現しています。
引用元:TDK公式HP https://www.tdk.com/ja/index.html
EMC試験に関する高い専門性とノウハウから、適切な製品選びや試験環境構築の相談ができます。
電波暗室業界のパイオニア的存在として豊富な施工実績を誇り、先進的な技術を取り入れたEMC試験所も開設。
2024/3/28時点「電波吸収体 メーカー」で調べた際、最終ページまでの検索結果上の公式HPで電波吸収体の取り扱いを確認できたメーカー13社13社を調査。そのうち、用途別
に複数シリーズの電波吸収体を製造・販売している企業6社から以下の条件により3社を選定。
・E&Cエンジニアリング:6G帯にも対応できる電波吸収体の自社製造を行っている
・新日本電波吸収体:電磁波ノイズ抑制製品について最も多くのラインナップがある
・TDK:国際基準を満たしたEMC試験所を開設し、車載機器のEMC測定の試験所認定を取得している