一口に電波暗室といっても、各企業がさまざまな特色を持った製品を開発しています。これから電波暗室を導入する際に、知っておくと役立つ基礎知識を集めているので、電波暗室について知識を深めてみてください。
私たちの暮らしの中には便利な電子機器や無線機器などが溢れています。これらの機器は製品化される前に、周辺の機器に影響を及ぼさないか、周辺機器から電磁波の影響を受けずに作動するかチェックする必要があります。
電波暗室は、電子機器などから放射される電磁波を測定するため、電波環境に影響されないように外部からの電磁波を遮断し、内部でも電磁波が反射しないようにした特殊な構造をもつ空間。外部にも電磁波を漏らさない構造になっているため、正確な数値を測定することができます。
近年、AIやIoTなどのIT技術が進み、電波暗室の需要が高まっており、測定する対象物によって色々なタイプの電波暗室が開発されています。
電波暗室は電磁波を遮蔽した磁性体や電波吸収体を配置することで、電磁界の反射を軽減する仕組みになっています。電波暗室のサイズや使用する電波吸収体の種類は、検査対象となる電子機器・無線機器などの大きさや使用目的によって異なります。
電波暗室の価格は規模によって大きく異なり、簡易的なものだと数十万円、規模の大きいものだと数千万円以上かかることもあります。導入する電波暗室の規模によっては既存の建物の構造にも手を加える大掛かりな工事も必要となるため、どのくらいの規模の電波暗室が必要になるのかを確認しておくと良いでしょう。
EMC試験とは、複数の電子機器が存在する際に、ほかの電子機器の動作を妨げる電磁波を出さず、さらにほかの電子機器からの電磁波の影響も受けないかどうかをチェックする試験のことです。EMCには国ごとに守るべき規格が定められており、製品を国外に出荷する際は当該地域で有効な規格を満たしている必要があります。
電波暗室とシールドルームは、いずれも外部からの電磁波の侵入と内部からの漏洩を防ぐ役割を持った空間です。さらに電波暗室は内側に電波吸収体が設置されているため、シールドルームでは防げない内部での電磁波の乱反射を抑えられる構造になっています。
電波暗室にはいくつかの種類があり、代表的なのがEMC試験にも使用される3m法と10m法の2つです。3m法はアンテナと検査対象となる製品までの距離が3mの電波暗室で、小型機器のEMC試験に適しています。10m法はアンテナから検査対象の製品までの距離が10mの電波暗室で、大型機器のEMC試験に適しているのが特徴です。
外部からの電磁波の影響をうけず、さらに外部に電磁波を漏らさないことで電波法の制限も受けない電波暗室の特性を利用し、さまざまな試験・測定が行われています。電波暗室で行われる試験・測定には、放射エミッション測定をはじめ、車載・車両エミッション測定やアンテナ照射試験、TEMセル試験ストリップライン法試験などがあり。たとえば放射エミッション測定は、電子機器から放射される電磁波の強度を測定する試験です。
電波暗室のレンタル料金の相場は10m法暗室だと1日あたり25万~40万円、3m法暗室は15万~25万円になります。電波暗室をレンタルするメリットは初期費用が安く、メンテナンス費用もかからないこと。一方でレンタル先の電波暗室まで出向かなければならず、EMCの認証機関に登録されているかの確認も必要です。
電波暗室をレンタルする料金やメリット・デメリットについて
詳しく知る
簡易電波暗室は、各国の法規制規格に準拠していない電波暗室のことです。規格に準拠している正規の電波暗室に比べ、小型かつ軽量で、安価に設置できるのが特徴。簡易電波暗室での測定ではEMC認証の取得はできませんが、正規の電波暗室と上手に使い分けることで費用を抑えられるケースもあります。
5G通信の性能評価を行うには電波暗室が不可欠なことから、電波暗室の需要が高まっています。電波暗室で5G通信の性能評価を行うには、5G通信に適合するシールドルームや電波吸収体、アンテナ、計測機器・システムなどが必要です。
EMC試験の品質を保証するには、電波暗室の適切な保守・メンテナンスが欠かせません。また、電波暗室が故障・不具合などで使用できなくなると修理費や経済的損失が発生するため、それを回避するためにも適切な保守・メンテナンスが重要になってきます。
電波暗室の移設に対応している会社であれば、電波暗室の解体・運搬・移設先での再設置が可能です。また、軽量の簡易電波暗室なら組み立て・設置を容易に行えるため、将来的に電波暗室の移設が想定される場合は簡易電波暗室を導入するという方法もあります。
無響室とは外部からの音を遮断し、室内での音の反射を防ぐ空間のことで、音響機器などの開発や試験に使用されています。電波暗室と同じような働きをすることから、EMC業界では電波暗室を意味する言葉として無響室が用いられることも。ただ、それだと紛らわしいので、本来の無響室と区別するために「電波無響室」と呼ばれることもあります。
電波暗室とオープンサイト(OATS)は、いずれもEMC試験に使用される施設です。電波暗室がシールドルームや電波吸収体を用いて外部からの電磁波を遮断するのに対し、オープンサイトは外部からの電磁波がそもそも少ない山奥などに設置されるという違いがあります。
ノイズ障害とは、他の電子機器から放射されたノイズの影響を受け、誤作動を起こしたり故障したりすることです。ノイズ障害による誤作動で死亡事故が起きた事例もあるため、そういった事故を防ぐためにも十分なノイズ対策が求められます。
ミリ波とマイクロ波はどちらも電磁波の一種で、波長によって区別されます。ミリ波の波長が1~10mmなのに対し、マイクロ波の波長は1~10cmです。それぞれの特徴を生かし、通信・放送やセンシングなどの分野で活用されています。
VCCIマークは製品から妨害波が出ていないことを示すマークで、パソコンやデジタルカメラ、オーディオ機器などに付けられています。妨害波とは、ほかの機器の画面の乱れや雑音、誤作動などを引き起こす可能性のあるノイズのことです。VCCIマークを付けるにはVCCI協会に入会し、適合確認試験を受ける必要があります。
電波暗箱・シールドボックスは、外部からの電波を遮断し、さらに内部の電波を外部に漏らさない構造をした箱状の設備のことです。電波暗室やシールドルームに比べて小型なので省スペースで設置でき、さらに安価で導入できるというメリットもあります。
OTA測定とは、5GのスマートフォンやIoT機器などの無線機器のアンテナ性能を測定・評価する方法です。従来の無線機器からアンテナを取り出して有線ケーブルに接続する方法ではなく、空間に電波を飛ばして総合的に測定するのが特徴。アンテナと無線が一体化した5G機器だと従来の方法での性能の測定・評価ができないため、OTA測定が採用されています。
フェライトとは日本で生まれた磁性体で、電気抵抗値が高く、電気を通しにくいという性質を持っています。電波吸収体に使用されており、電気電子機器のノイズ対策・ノイズ評価を行うEMC試験用電波暗室に欠かせない物質です。
電磁波シールドとは、電磁波を制御して電子機器やシステムへの干渉を防ぐために使用される素材や技術のことです。さまざまな分野で電子機器やシステムが普及している現代において、電磁波シールドの必要性が高まっています。
リバブレーションチャンバーは内壁が金属のシールドルームと撹拌機で構成された測定システムで、あらゆる方向から電波が到達する均一な電磁場をつくりだせるのが特徴。都市部の電磁波環境に近い状態を再現できることから、信頼性の高いEMC試験を行えるとして自動運転や車載ネットワークシステム、4G・5G通信システムなどの試験に用いられています。
日本国内で電波を使用したり、電波設備や電波機器を取り扱ったりする場合、電波法に定められているルールに従わなければなりません。
電波暗室の利用を検討している方は、まず電波法の概要や電波法違反になるケースなどを理解しておきましょう。
電波は条件に合った周波数のものを使わなければならず、目的に対して利用価値のある電波は有限です。そのため電波はまさしく資源(電波資源)であり、電波産業の発展に合わせて電波資源への需要や課題が増しています。
プリコンプライアンステストは、製品開発の段階で行われるEMI/EMCの予備試験で、最終的なEMC試験に進む前に問題を発見・修正するために実施されます。正式な試験よりも低コストで柔軟に行え、早期に電磁波干渉や感受性の問題を把握することが可能です。これにより、開発段階での設計変更が容易になり、製品の品質向上と市場投入のスムーズな進行を実現します。
SVSWR(Site Voltage Standing Wave Ratio)は、電波暗室や電磁波試験サイトの反射特性を評価する重要な指標で、特に1GHz以上の高周波帯域で使用されます。理想的な自由空間条件に近い測定環境を保証するため、国際規格CISPR 16-1-4に準拠して測定されます。反射波の影響を数値化することで、測定精度を確保し、グローバルな信頼性を実現します。測定にはネットワークアナライザや自動化システムが用いられ、6dB未満が適切な基準とされます。
NSA(正規化サイトアッテネーション)測定は、EMC試験で使用する試験サイトの適合性を評価する手法です。理想的な条件と実測値の差を分析し、±4dB以内の許容範囲を確認することで、サイトの信頼性と試験結果の正確性を保証します。この測定では、アンテナの配置やケーブルの影響に注意し、国際規格(CISPR 16-1-4やANSI C63.4)に基づく手順を遵守します。最新の測定ソフトウェアや技術を活用することで、精度と効率が向上します。
CATR(Compact Antenna Test Range)は、アンテナ特性を評価するための先進的な試験設備です。広大なスペースを必要とする従来の遠方界測定を室内で再現可能にする技術で、5Gや自動車用ミリ波レーダーなど高周波帯の評価で活躍しています。パラボラ反射鏡や誘電体レンズを使って「球面波」を「平面波」に変換し、正確で再現性の高い測定環境を提供。設置コストの削減や外部ノイズの排除が可能な電波暗室と組み合わせることで、研究開発から量産検査まで幅広く貢献しています。
電波暗室の原型は、第二次世界大戦中の軍事技術の発展とともに誕生した発明品です。当時は、レーダー技術が急速に発展しており、敵の探知システムや自国の防衛システムの性能を正確に評価する必要がありました。
戦争中は、正確なレーダー測定が極めて重要であり、外部からの雑音や反射波を極力排除する必要がありました。そこで、金属板を用いた簡単なシールド構造や、初歩的な吸収材を利用した部屋が開発され、実験室として使われるようになったのです。
戦後、技術は軍事用から民生用へと大きく転換していきました。テレビやラジオ、そしてその後に登場した携帯電話やパソコンなど、多くの電子機器が市場に登場する中で、各機器同士が互いに干渉しないかどうかを確認するための検査設備として電波暗室が必要とされました。
経済成長とともに、電子機器の普及が進む中で、製品が正しく動作するかどうか、また他の機器に悪影響を及ぼさないかを検査するために、各社が独自の電波暗室を導入するように。これにより、品質管理の面でも非常に重要な施設となりました。
1970年代以降、世界各国でEMC(電磁両立性)に関する国際規格が整備され始め、電波暗室での測定方法や基準が統一されるようになりました。
国際規格が制定されることにより、各国で同じ基準で測定を行えるようになり、製品の認証がスムーズになりました。これにより、グローバル市場での製品展開が容易になり、電波暗室は国際的な品質管理のための重要なインフラとなったのです。
初期の電波暗室では、単純な金属板と基礎的な吸収材が使われておりましたが、現在では、より高度な材料が使用されるようになりました。
たとえば、合成樹脂にカーボンやフェライトを混ぜた複合材料は、広い周波数帯にわたって効果的に電波を吸収することができます。また、壁や天井の設計も、複数の層を持つことで、電波の漏れや反射を最小限に抑える工夫がなされております。
近年、コンピュータ制御による測定システムを導入することで、従来の手作業による測定に比べ、より正確で迅速なデータ取得が可能となりました。これにより、製品の評価にかかる時間とコストが大幅に削減され、信頼性の高い結果を得ることができます。
また、電波暗室は大規模な施設の場合、多くの電力を消費することがありましたが、近年ではエネルギー効率の向上にも力が入れられております。再生可能エネルギーの利用も検討され、環境に優しい試験施設としての取り組みが進められております。
現在、5G通信が急速に普及している中で、今後は6Gやそれ以降の次世代通信技術への対応が求められます。
次世代通信技術は、より高い周波数帯で動作するため、従来の電波暗室では対応しきれない部分も出てきます。そこで、より高精度な測定環境や、広範囲の周波数に対応できる新しい吸収材料・シールド技術の開発が期待されています。
今後、IoT(モノのインターネット)や自動運転車など、多数の機器が相互に通信する環境が広がってまいります。
それぞれの機器が正しく動作するためには、互いに影響を及ぼさないことが重要です。電波暗室を用いた試験により、複数の機器が同じ空間で動作した場合の干渉やノイズの影響を正確に評価することができ、システム全体の安全性と信頼性を確保することが可能となります。
グローバル市場においては、各国で統一された試験基準がますます重要になっております。
国際的な規格機関は、最新の技術動向に合わせて規格の見直しや更新を進めています。これにより、電波暗室の性能評価方法がさらに洗練され、世界中の企業が同じ基準で製品評価を行えるようになることで、国際競争力が高まることが期待されます。
電波暗室は、外部からの電磁波を遮断する一方で、内部で使用される高エネルギーの計測機器や、試験中に発生する異常信号に対する安全対策も重要となっております。
リアルタイムでの監視システムや自動停止装置など、万が一のトラブルが発生した場合に迅速に対応できるシステムの導入が進められております。これにより、試験中の事故や装置の損傷を未然に防ぎ、利用者が安心して測定を行える環境が整えられております。
電波暗室は、私たちが安心して電子機器を利用できるよう、その品質や安全性を裏付けるための基盤となっております。技術の進歩とともに、電波暗室自体も進化し続けることで、未来のさまざまな新技術の発展を支える重要な施設として、これからも存在感を発揮し続けることは間違いありません。
このように、電波暗室の歴史とその未来展望を理解することで、私たちは現代の電子機器がどのような背景の中で安全に動作しているのか、また今後どのような技術革新が期待されているのかを、より身近に感じることができるでしょう。今後も新しい技術や環境への配慮が進む中で、電波暗室の役割はますます重要になり、商品開発や日常生活を支える一翼を担い続けることでしょう。
電波暗室を導入するにあたって最初に考えるべきなのは、購入にするかレンタルにするかということ。電波暗室の施工には5,000万~10億円という規模の予算が必要となります。購入となった場合は、計測システムを持っているかどうかで選ぶべき企業が変わってくる点にも注意が必要です。
自社の状況別に3つの企業を紹介していますので、ぜひ参考になさってください。
引用元:マイクロウェーブ ファクトリー公式HP
(https://www.mwf.co.jp/)
電波暗室だけではなく、電波暗室に必須の"計測システム"もまとめて提供してくれる会社。
調整やコミュニケーションの手間が減少し、導入期間の短縮が期待できます。
引用元:TDK公式HP
(https://www.tdk.com/ja/index.html)
電波暗室だけを増設したい会社におすすめ。
既存のメーカーの製品保守やメンテナンスにも対応をしており、施工実績も豊富なメーカー(※)です。
引用元:テュフラインランドジャパン公式HP
(https://www.tuv.com/japan/jp/)
大規模な生産をしない場合や、予算確保が困難な場合はレンタルがおすすめ。
EMC試験だけでなく、アンテナ計測など多種多様な試験を行える体制を整えております。
【選定条件】Google検索「電波暗室」で表示された上位22社を調査(2022年3月11日時点)。それぞれ以下の条件で選定。
・電波暗室を初めて導入するなら:唯一、グループ会社内で電波暗室と計測システムの両方を提供している企業
・今ある電波暗室を増室したいなら:既存の電波暗室の補修やメンテナンスに対応しており、なおかつ公式HPに掲載されている電波暗室の施工実績数が一番多い企業(累計1,200基)(2022年3月調査時点)
・購入するほどの費用帯効果を見込めないなら:電波暗室のレンタルを行っている企業の中で、唯一アンテナ計測、EMCの両方のレンタルが可能