電波暗室の導入を検討している場合、ECM試験の頻度がそれほど高くなければ、簡易電波暗室の導入も選択肢です。正式なECM試験のときのみ正規電波暗室をレンタルで使用し、EMI対策の設計・改善・検討は自社導入した簡易電波暗室で行なえば、費用を安く抑えられるケースがあるからです。
この記事では、簡易電波暗室の特徴やできること、向いていないことを紹介します。自分の属している組織に合った試験環境、計測環境を構築する参考にしてください。
簡易電波暗室とは、CISPRやEN、 FCC、 VCCIなどの各国の法制規格に準拠していない電波暗室のことです。
規格準拠の電波暗室(以下、正規電波暗室)は、どうしても設備が大掛かりになり、導入費用・維持費も高額です。自社での導入をためらうケースも多いでしょう。それに対して簡易電波暗室は、正規電波暗室と比較して小型・軽量で、設置も短期間ででき、安価です。規格に準拠はしていないものの、測定結果は正規電波暗室の測定結果と相関はしています。
もちろん、正式なEMC試験を行なうためには、正規電波暗室が必要です。しかし、EMC試験に至る前の設計や改善・検討を行なうためには、簡易電波暗室は十分な性能を持っています。
簡易電波暗室でできることは、正規電波暗室で正式測定するまえに、試験結果の当たりをつけることです。測定結果にどうしても誤差は出ますが、相対的な評価はでき、特にEMI対策に効果があります。
EMI対策においては、測定対象機器のノイズの測定、およびその結果に基づいてのノイズ低減のための改善・検討を繰り返さなくてはなりません。多大な時間がかかるこのEMI対策は、相対的な評価が可能な簡易電波暗室で十分できます。まず簡易電波暗室でEMI対策を十分行ない、その後に正式なEMC試験を正規電波暗室で行なえば、認証を得られる確度が高まります。
簡易電波暗室は、上述のとおり規格に準拠していません。したがって、測定しても認証の取得はできません。認証を取得するためには、正規電波暗室で測定を行なう必要があります。
簡易電波暗室はEMC対策の設計・改善・検討のため、正規電波暗室は認証取得のためと、上手に使い分けることをおすすめします。
電磁波シールドテント型の簡易電波暗室です。サイズは8種類をラインナップし、大掛かりな工事が不要のため工期は2~3日程度です。
高密度生地を2重化したシールドテントは、高いシールド性能を有します。電波吸収体はシールドテント上ではなく、アルミフレームに固定されたアルミ板に装着するため、風などでテントが揺れても電磁波の反射に影響がなく、また内部有効寸法を大きく確保できます。
シールドテントのみを先に購入し、その後電波暗室へのグレードアップをすることも可能です。
電磁波シールドテント型の簡易電波暗室です。軽量のため組み立てや移設が容易にできます。
高性能なシールドテント素材の採用で、シールド特性は-40dB以上(100MHz-40GHz)。シールドテント内部に設置された電波吸収体で、反射電波を吸収します。
UWBや携帯電話、スマートフォン、無線LAN、ZigBee、UHF-RFIDのモジュール、その他通信端末の開発・品質保証の評価試験、および認証取得以前の開発評価試験ができます。
電波吸収体で反射電波を吸収するため、通信性能を評価するための無響状態も実現可能。建物内で試験を行なうのに特に適した、軽量卓上タイプのラインナップもあります。
既存の電磁波シールドテントを簡易電波暗室化するための製品です。組み立て・分解・移動が容易なため、自社内で行なえます。
コストも従来の電波暗室と比べれば安価なため、正規の電波暗室を構築するためのスペースがない、あるいは電波暗室が一時的に必要、といったニーズに最適です。
対応周波数は900MHz~(上限は要問合せ)となっており、5G関連機器の研究・開発に最適です。電磁波の共振や反射を抑制するため、自由空間に近い環境での測定ができます。
※シールド性能と電波吸収性能は、2022年6月時点、公式サイトで確認できませんでした。
以上で見てきたように簡易電波暗室とは、正規電波暗室が各国の法規規格に準拠しているのに対し、法規規格に準拠していない電波暗室です。ただし、簡易電波暗室の測定結果は誤差はあるものの、正規電波暗室の測定結果と相関はしています。そのため、正式なECM試験を行なうまえの設計や改善・検討のために簡易電波暗室を使うことが可能です。
簡易電波暗室の使用に向いているのは、ECM試験の頻度がそれほど高くない事業所です。
ECM試験の頻度が高くなければ、正規電波暗室を自社で購入するのでなく、レンタルで利用するケースが多いでしょう。ただしその場合、多大な時間がかかるEMI対策の設計・改善・検討のために正規電波暗室を使うのでは、レンタル費用がかさみます。
そこで、EMI対策は比較的安価な簡易電波暗室を自社で導入のうえ使用し、正式なEMC試験のみ正規電波暗室をレンタルすれば、全体の費用を抑えられる可能性があります。
それに対して、EMC試験の頻度が高ければ、正規電波暗室を購入してしまったほうが安くつくことになるでしょう。正規電波暗室のおすすめは、本サイトの他のページで詳しく紹介しています。正規電波暗室の導入を検討している方はぜひ、参考にしてください。
このサイトでは、電波暗室の他に、電波吸収体の詳細解説や、おすすめのメーカー、知っておきたい基礎知識について紹介しています。電波吸収体メーカーについても製品例とともに用途別に紹介しています。電波吸収体を検討されているかたは、ぜひこちらも参考にしてみてください。
電波暗室を導入するにあたって最初に考えるべきなのは、購入にするかレンタルにするかということ。電波暗室の施工には5,000万~10億円という規模の予算が必要となります。購入となった場合は、計測システムを持っているかどうかで選ぶべき企業が変わってくる点にも注意が必要です。
自社の状況別に3つの企業を紹介していますので、ぜひ参考になさってください。
電波暗室だけではなく、電波暗室に必須の"計測システム"もまとめて提供してくれる会社。
調整やコミュニケーションの手間が減少し、導入期間の短縮が期待できます。
電波暗室だけを増設したい会社におすすめ。
既存のメーカーの製品保守やメンテナンスにも対応をしており、施工実績も豊富なメーカー(※)です。
大規模な生産をしない場合や、予算確保が困難な場合はレンタルがおすすめ。
EMC試験だけでなく、アンテナ計測など多種多様な試験を行える体制を整えております。
【選定条件】Google検索「電波暗室」で表示された上位22社を調査(2022年3月11日時点)。それぞれ以下の条件で選定。
・電波暗室を初めて導入するなら:唯一、グループ会社内で電波暗室と計測システムの両方を提供している企業
・今ある電波暗室を増室したいなら:既存の電波暗室の補修やメンテナンスに対応しており、なおかつ公式HPに掲載されている電波暗室の施工実績数が一番多い企業(累計1,200基)(2022年3月調査時点)
・購入するほどの費用帯効果を見込めないなら:電波暗室のレンタルを行っている企業の中で、唯一アンテナ計測、EMCの両方のレンタルが可能