電波暗室は電磁波の実験や測定だけでなく、ノイズ対策のための試験も行われています。ここでは、電波暗室を使用して行うEMC規格試験について解説しています。試験の目的や規格の種類などについてまとめているので、確認していきましょう。
電気・電子製品は使用時に電磁波を発生させるため、他の電子機器の誤作動を招いたり、他の機器の電磁波の影響を受けて機能障害を起こす可能性があります。そこで、複数の電子機器が存在した場合でも、互いに電磁的な影響による問題を発生させずに正常に動作できるか事前にチェックしておく必要があります。
複数の電子機器が存在した時に電子機器が外部へ電磁的な影響を与えず、外部からの電磁エネルギーによる影響を受けないことをEMS性能といい、これらの動作チェックのことをEMS試験といいます。
電気や電子製品を製品化したり海外へ展開する際には、電磁波の発生によって悪影響を与えないことを確認するエミッション(EMI)測定と、電磁波による影響を受けない機能をもっているかを確認するイミュニティ(EMS)試験が必須となっています。
EMC試験に必要なものは、まず試験の対象となる製品です。試作品の段階で試験を行った場合でも、最終的に出荷される製品に部品などの変更があったときは、全項目の再試験が必要です。
製品が単体では動作しないものであれば、動作に必要な周辺機器もすべてそろえる必要があります。機器の配置や接続法は、あらかじめ確認しておきましょう。
EMC試験の費用は以下のものがかかります。
設備や機器の使用料は、必要な試験項目が実施可能な設備・機器の、単位時間あたりの使用料と、使用時間によって決まります。
人件費は、自分で測定を行う自主測定では必要ありませんが、試験場の担当者に試験を実施してもらう依頼測定や、担当者に試験場所まで来てもらう出張測定では必要になってきます。
書類作成手数料は、試験の成績書や、試験設備の校正・成績証明書、その他の技術文書などの発行に必要です。
運送費・旅費は、依頼測定で試験をする製品を試験場に送るため、あるいは出張測定で担当者に来てもらうためにかかります。
認可申請代行費用は、認可申請の代行を依頼する場合は必要です。
対策サービス費用は、試験結果が規格を満足しない場合、対策のアドバイスをしてもらうならかかります。
EMCには守るべき規格が定められています。EMC規格には、全世界的に定められる国際規格や、欧州やオセアニアなどの地域規格、日本をはじめとする国ごとの国家規格、特定の団体が作る団体規格など、いくつもの種類があります。
いずれの規格も内容は、イミュニティについて定めたイミュニティ規格、エミッションについて定めたエミッション規格の2つです。国内外へ製品を出荷する際には、製品が当該地域で有効な規格を満たしていることがポイントとなるでしょう。
日本国内のEMC規格としてまず挙げられるのは、産業標準化法に基づき制定される国家規格である日本産業規格(JIS) です。
一般に任意のものですが、医用電気機器のEMC規格など、法令の技術基準などに引用される場合には強制力を持つことになります。
情報処理装置等電波障害自主規制協議会(VCCI)は、情報技術装置(ITE)から発生する妨害波に対する自主規制制度です。日本国内に出荷されるITEを対象とし、参加する国内外企業により運営されます。国際規格を参照した技術基準に基づいて、会員企業が自社のITE製品に対して自主的に適合確認を行い、確認された製品にはVCCIマークを表示します。
電気・電子機器の国際規格としてIEC(国際電気標準会議)があります。EMCに関連する主要な委員会としてTC77とCISPR(国際無線障害特別委員会)があり、基本規格や共通規格を作成しています。また、TC22(パワーエレクトロニクス)やTC62(医療機器)、TC65(工業プロセス計測制御機器)などの製品委員会が、各製品郡の規格を作成しています。
EUでは2016年4月20日に、家電や測定機器、産業機械など、ほとんどの電気・電子機器が対象となるEMC指令が、2004/108/ECから2014/30/EUに置き換えられました。EMC指令によれば、製品は電磁的妨害源とならないよう、かつ電磁的な干渉を受けても正常に動作するよう、設計・製造されていなければなりません。EMC指令に適合する製品はCEマークを表示し、欧州経済地域とトルコでの製品の自由な流通が可能となります。
アメリカではFCC(米国連邦通信委員会)が、「連邦規則(CFR)47 電気通信」を発行し、無線通信機器や電気機器の電磁ノイズの取締りを行っています。CFR47はPart0からPart90までの各項があり、Part15は無線周波装置、Part18はISM(工業・科学・医療)機器、Part2は無線周波数機器一般規定などです。米国内で各種機器を販売する場合には、CFR47への適合証明を取得しなければなりません。
EMI(エミッション)とは、電子機器から発生する電磁ノイズのことです。電磁ノイズには、空中に放射される「放射エミッション」と、電源線や通信線を伝わって外部に伝搬する「伝導性エミッション」の2種類があります。
EMI試験では、この放射エミッションと伝導性エミッションの双方を測定し、それぞれの強度が規格で定められた値以下となっているかを確認します。
放射EMI試験では、電子機器から数m~数十m離れた場所に設置したアンテナでノイズの強度を測定します。伝導EMI試験では、電子機器と電源のあいだに疑似電源回路網(LISN)を設置して、電源線を伝搬するノイズを測定します。
EMI試験の規格は、国際規格として「CISPR」、および各国の規格として、日本なら「VCCI」、アメリカなら「FCC」、EUなら「EN」などがあります。ただし、代表的といえるのは国際規格CISPRで、各国の規格もCISPRを参照して制定されています。
放射EMI試験の実施には、広大な平地であるオープンサイト(OATS)または電波暗室が必要です。オープンサイトは、近年放送波や無線通信、車両などの電磁波により電波環境が悪化しているため、周囲の電波環境によらずEMI試験を実施できる電波暗室の重要性がますます高まっています。
伝導エミッション試験とは、電子機器から電源線や通信線を通じて外部に伝播する電磁ノイズ(エミッション)を測定する試験です。このエミッションが他の機器に干渉しないことを確認するため、電磁適合性(EMC)の基準に従って実施されます。具体的な規格には、CISPR11(産業用機器向け)、CISPR14(家電向け)、CISPR32(マルチメディア機器向け)などがあります。測定周波数は主に150kHz~30MHzが多く、測定にはLISNやISNなどの擬似回路網を使用します。
放射エミッション試験とは、電子機器(EUT)が外部に放射する電磁ノイズを測定する試験です。アンテナを機器から3mまたは10m離れた位置に設置し、電磁波の強度を測定します。この試験は、機器が他の電子機器に干渉しないことを確認するために行われ、代表的な規格にはCISPR11(産業機器)、CISPR14(家電)、CISPR32(マルチメディア機器)などがあります。測定周波数範囲は30MHz~1GHzが一般的で、1GHz以上を測定する規格も存在します。
EMS(イミュニティ)とは、外界のさまざまなノイズがあっても、電子機器が性能を低下させずに作動する能力を意味します。もともとは医学用語で「免疫」を意味していて、それが「外界のノイズに対する電子機器の耐性」という意味に転用されました。
EMS試験では、さまざまな外界のノイズを想定した、擬似的な妨害電磁界を与えたときの、電子機器の耐性を評価します。妨害電磁界を与える方法は、空中から放射して与える方法と、接続された電源などのケーブルを伝搬させて与える方法の2つがあります。
EMI試験の規格が放射・伝導するノイズの強度を定めるものであるのに対して、EMS試験の規格は、試験で使用されるノイズの強度とともに、電子機器が耐える条件が定められています。ノイズが比較的穏やかな試験では、機器は通常動作しなければなりませんが、ノイズが厳しい試験では、機器の一時的な性能低下も認められます。
EMS試験は、一般にノイズに弱い、センサなどの微小アナログ信号を扱う回路にとって重要です。ただし、近年の駆動電圧の低下にともない、デジタル機器のEMS試験も重要性を増しています。
EMS試験(イミュニティ試験)の具体的な試験内容を以下で紹介します。
帯電した人体や物体が電子機器に接近・接触したときに発生する静電気により、電子機器が誤動作したり、故障したりしないことを確認する試験です。
テレビやラジオ、無線機、携帯電話、家電製品、工業製品、医療機器などから放射される電磁波により、電子機器が誤動作・故障しないことを確認する試験です。
リレー接点の跳ね返りや高圧開閉装置などが発生する電磁過渡現象により、電子機器が誤動作・故障しないことを確認する試験です。
落雷、あるいは電力系統のスイッチングが原因となり、電源線や回路などを伝搬する、急に立ち上がって穏やかにたち下がる電流・電圧(サージ)により、電子機器が誤動作・故障しないことを確認する試験です。
テレビやラジオ、無線機、携帯電話、家電製品、工業製品、医療機器などから放射される電磁波が、電子機器に接続されるケーブルに作用しても、電子機器が誤作動・故障しないことを確認する試験です。
電源線や変圧器などから発生する磁界により、電子機器が誤動作・故障しないことを確認するための試験です。
電源の故障や負荷の急激な変化で発生する電圧ディップや、短時間の停電や負荷の連続的な変化で発生する電圧変動が加わっても、電子機器が一時的な性能低下から復旧できることを確認する試験です。
電波暗室を導入するにあたって最初に考えるべきなのは、購入にするかレンタルにするかということ。電波暗室の施工には5,000万~10億円という規模の予算が必要となります。購入となった場合は、計測システムを持っているかどうかで選ぶべき企業が変わってくる点にも注意が必要です。
自社の状況別に3つの企業を紹介していますので、ぜひ参考になさってください。
電波暗室だけではなく、電波暗室に必須の"計測システム"もまとめて提供してくれる会社。
調整やコミュニケーションの手間が減少し、導入期間の短縮が期待できます。
電波暗室だけを増設したい会社におすすめ。
既存のメーカーの製品保守やメンテナンスにも対応をしており、施工実績も豊富なメーカー(※)です。
大規模な生産をしない場合や、予算確保が困難な場合はレンタルがおすすめ。
EMC試験だけでなく、アンテナ計測など多種多様な試験を行える体制を整えております。
【選定条件】Google検索「電波暗室」で表示された上位22社を調査(2022年3月11日時点)。それぞれ以下の条件で選定。
・電波暗室を初めて導入するなら:唯一、グループ会社内で電波暗室と計測システムの両方を提供している企業
・今ある電波暗室を増室したいなら:既存の電波暗室の補修やメンテナンスに対応しており、なおかつ公式HPに掲載されている電波暗室の施工実績数が一番多い企業(累計1,200基)(2022年3月調査時点)
・購入するほどの費用帯効果を見込めないなら:電波暗室のレンタルを行っている企業の中で、唯一アンテナ計測、EMCの両方のレンタルが可能