CATR(Compact Antenna Test Range)は、アンテナの特性を評価するための先進的な試験設備です。従来、アンテナの遠方界測定には大規模な屋外テストレンジや広大なスペースが必要でした。しかし、CATRを活用することで、電波暗室内でコンパクトに「平面波」を再現し、遠方界の測定を室内で実施できるようになります。
近年では5Gや自動車用ミリ波レーダーなど、高周波帯(数十GHz以上)のアンテナ評価のニーズが急速に高まっています。CATRは、これらの高周波帯アンテナを安定した環境で評価するのに適しており、研究開発や製品試験の効率化に大きく貢献しています。
アンテナを評価する際には、遠方界(十分に離れた場所での電波分布)を再現する必要があります。従来はアンテナから数十メートル~数百メートル離れた場所で測定しなければなりませんでしたが、CATRではパラボラ反射鏡や誘電体レンズを用いて「球面波」を「平面波」に変換し、室内で遠方界と同等の環境を作り出します。
凹型の反射面(オフセットパラボラなど)を用いて、点状の信号源から出る球面波を平面波へと変換します。反射鏡の形状や大きさを最適化することで、広帯域かつ高精度の測定を可能にします。
レンズの屈折特性を利用して球面波を平面波へ変換します。小型化が容易で、特定の周波数帯に合わせて設計・最適化できます。
CATRは、完全な電波暗室内に設置されます。電波暗室は壁や天井に電波吸収材を敷設しており、外部からの不要な電波が入りにくく、室内で発生した電波の反射も極力抑えられる環境です。これにより、測定対象アンテナが放射する電波だけを正確に測定できます。
厚みのある電波吸収材や金属シールドによって外部の電波を遮断し、純粋な測定データを得られます。
温度や湿度の管理が容易で、再現性の高いテストを行うことができます。
5G通信では24GHz~100GHz帯のミリ波を利用することが増え、アンテナ設計にビームフォーミングなどの先進技術が取り入れられています。CATRは、次のような用途で活用されています。
アンテナが狙った方向にどの程度指向性をもってビームを形成できるか、方向ごとの強度を測定します。
無線環境を模擬する形でデバイスを評価できます。ケーブルを直接つなぐのではなく、実際の「空間」を通した通信性能を総合的に検証します。
自動車用ミリ波レーダー(76GHz~81GHz帯)や、将来的には車両間通信(V2V/V2X)の周波数帯においても、高精度な測定が必要とされています。CATRは、車載アンテナやミリ波レーダーのビーム特性・感度を室内で再現性高く評価できるため、以下の場面で有効です。
レーダーアンテナの探知能力やビーム特性を確認し、車両の安全性向上につなげます。
自動運転やコネクテッドカーに必要な通信性能を、外部ノイズの少ない環境で正確に評価します。
衛星通信のアンテナや、航空機搭載のレーダー・通信装置でも、遠方界での高精度計測が求められます。CATRはコンパクトな室内環境で遠方界を再現できるため、衛星や航空機用アンテナの指向性や利得、ビームパターンを総合的に測定可能です。
従来の遠方界テストレンジ(数十~数百メートル規模)を用意する必要がなく、建物内に電波暗室を設けるだけで済むため、大幅な土地コスト削減が可能です。
外部ノイズや不要反射をほぼ排除できるため、純粋で高精度なデータを取得できます。
24GHz~100GHz超といったミリ波帯だけでなく、サブミリ波や将来的にはテラヘルツ帯域の評価にも活用が期待されます。
測定対象や用途に合わせて、パラボラ反射鏡や誘電体レンズを最適に設計・変更可能。製品のサイズや周波数帯の多様なニーズに柔軟に対応します。
6G(100GHz以上)やサブテラヘルツ帯など、より高い周波数帯の利用が進むことで、CATRに求められる技術や設計もさらに高度化していきます。小型・高指向性アンテナを測定する必要が増えるため、CATRの高精度な平面波再現技術はますます重要性を増すでしょう。
多数のデバイス同士が無線でつながるIoTや、リアルタイムで膨大なデータをやり取りするAI搭載機器の性能評価にもCATRが役立ちます。OTA環境下での実運用に近い測定を行えるため、将来的なスマートシティや自動化システムの開発を強力に支えます。
テラヘルツ帯測定や量子通信といった新興分野でも、CATRのコンパクトに遠方界を再現する仕組みが参考にされる可能性があります。今後はほかの計測装置やシミュレーション技術と統合することで、より複雑な無線システムを総合的に評価できるようになると期待されています。
CATR(コンパクトアンテナテストレンジ)は、高周波帯アンテナの評価をはじめ、5G・自動車用レーダー・衛星通信・航空宇宙など、幅広い分野で不可欠なテストシステムへと進化を続けています。大規模な遠方界テストレンジを用意しなくても、電波暗室内で遠方界を再現し、高精度かつ効率的なアンテナ評価を行える点が大きなメリットです。
次世代通信や自動運転、さらにはIoTやAIが普及していく時代において、CATRは研究開発から量産検査までのあらゆる段階で重要な役割を果たすと考えられています。これからも計測帯域の拡大や高精度化のニーズに応じて、CATRの技術がさらに発展していくことでしょう。
電波暗室を導入するにあたって最初に考えるべきなのは、購入にするかレンタルにするかということ。電波暗室の施工には5,000万~10億円という規模の予算が必要となります。購入となった場合は、計測システムを持っているかどうかで選ぶべき企業が変わってくる点にも注意が必要です。
自社の状況別に3つの企業を紹介していますので、ぜひ参考になさってください。
引用元:マイクロウェーブ ファクトリー公式HP
(https://www.mwf.co.jp/)
電波暗室だけではなく、電波暗室に必須の"計測システム"もまとめて提供してくれる会社。
調整やコミュニケーションの手間が減少し、導入期間の短縮が期待できます。
引用元:TDK公式HP
(https://www.tdk.com/ja/index.html)
電波暗室だけを増設したい会社におすすめ。
既存のメーカーの製品保守やメンテナンスにも対応をしており、施工実績も豊富なメーカー(※)です。
引用元:テュフラインランドジャパン公式HP
(https://www.tuv.com/japan/jp/)
大規模な生産をしない場合や、予算確保が困難な場合はレンタルがおすすめ。
EMC試験だけでなく、アンテナ計測など多種多様な試験を行える体制を整えております。
【選定条件】Google検索「電波暗室」で表示された上位22社を調査(2022年3月11日時点)。それぞれ以下の条件で選定。
・電波暗室を初めて導入するなら:唯一、グループ会社内で電波暗室と計測システムの両方を提供している企業
・今ある電波暗室を増室したいなら:既存の電波暗室の補修やメンテナンスに対応しており、なおかつ公式HPに掲載されている電波暗室の施工実績数が一番多い企業(累計1,200基)(2022年3月調査時点)
・購入するほどの費用帯効果を見込めないなら:電波暗室のレンタルを行っている企業の中で、唯一アンテナ計測、EMCの両方のレンタルが可能